現在の生命科学においては,シークエンサーや質量分析器に代表される計測機器の急速な進歩により,ゲノム,トランスクリプトーム,エピゲノム,プロテオーム,インタラクトーム,メタボロームなどの多種多様・大規模な分子レベルの「情報」が蓄積しています。これらの情報は生物ビッグデータ(あるいはオミクスデータ)と呼ばれ,このようなデータからいかにして新しい生命科学の発見をしていくかが非常に重要となっています。
このような状況の中でその重要性を増しているのが,生命科学と情報科学を融合した学際分野である「バイオインフォマティクス」(生命情報科学,生物情報科学)です。バイオインフォマティクスは,DNAやタンパク質の配列などの,生物の配列情報をディジタル情報として捉え,コンピュータにより解析を行うことを目的として誕生しました。このような,生物の配列情報を解析するバイオインフォマティクスの一分野は「配列解析」と呼ばれます(これは本シリーズでも主要なテーマとなっています)。上述の計測機器の進歩とともに,バイオインフォマティクスはここ数十年で飛躍的に発展し,いまや配列解析にとどまらずに,トランスクリプトーム解析,メタボローム解析,プロテオーム解析,生物ネットワーク解析など多岐にわたってきています。また,必要な知識も,統計学,機械学習,物理学,化学,数学などの多くの分野にまたがっています。しかしながら,これらのバイオインフォマティクスの多岐にわたる分野を,教科書的・体系的に学ぶことができる成書シリーズは,国内外を見てもほとんどありません。
そこで,大学生,大学院生,技術者,研究者などに,バイオインフォマティクスの各分野を体系的に学習することを可能とするための教科書を提供することを目的として本シリーズを企画しました。これを実現するために,バイオインフォマティクス分野の最前線で活躍をしている,若手・中堅の研究者に執筆を依頼しております。執筆者の方々には,バイオインフォマティクス研究の基盤となる理論やアルゴリズムを中心に,可能な限り厳密かつ自己完結的に解説を行うようにお願いしています。そのため,本シリーズは,大学などにおけるバイオインフォマティクスの講義の教科書として活用可能であるのみならず,読者が独学する場合にも最適な書籍になっていると確信しています。
本シリーズが,今後のバイオインフォマティクス研究さらには生命科学研究の一助となることを切に願います。
https://www.coronasha.co.jp/bioinformatics/
浜田道昭 (「バイオインフォマティクスシリーズ」監修)
シリーズ刊行・コロナ社